更ぬらんと思ふ物からねられねと
中々なれは月はしも見す
- 歌の意味
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夜も更けたことだろうと思いながら、眠ることもできずにいたけれど、なまじ見ればかえってつらいので、月は見ないでいた。
- 鑑賞
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霜の朝の戯れの贈答ののち、帥の宮からは二、三日便りがなかった。頼もしげに邸へ迎えると言ってくださったことはどうなったのだろうと思い続けて、和泉式部は眠ることもできず、目を覚ましたまま横になっていた。そろそろ夜が明ける頃だろうと思っていると、門を叩く音がした。思いがけない時刻なので誰だろうと思って尋ねさせると、帥の宮からの文であった。思いもかけない時刻だけに、帥の宮も同じように心ひかれて便りをくださったのだろうかとしみじみと思い、妻戸を押し開けて文を見た。
女は和泉式部のことで、大江雅致の娘であり、和泉守橘道貞の妻として小式部内侍をもうけた。帥の宮は冷泉天皇の第四皇子敦道親王で、大宰帥であったことからこう呼ばれる。
夜明け前に届いた帥の宮の文には「見るや君さようちふけて山端にくまなくすめる秋夜の月」と書かれていた。和泉式部は、ふと月を眺めて、いつもよりしみじみと思われ、門を開けずにいたので使いが待ち遠しく思っているだろうと、急いでこの歌を返した。
帥の宮は、予想とは違った言いぶりの返事を、思っていた以上に悪くないと思い、何とかして近くに置いて、このようなたわいない歌を詠ませて聞きたいものだと決心した。二日ほどして、帥の宮は女車のようなよそおいで、そっと和泉式部のもとを訪れることになる。
初句と第二句の「更ぬらんと思ふ物から」は、夜も更けただろうと思いながら、という意味で、帥の宮の歌の「さようちふけて」を受けている。「ものから」は逆接の接続助詞である。第三句の「ねられねと」は、眠ることもできないけれど、の意で、「れ」は可能の助動詞「る」の未然形、「ね」は打消の助動詞「ず」の已然形である。
下の句の「中々なれは月はしも見す」は、なまじ見ればかえってつらいので、月は見なかった、という意味で、「なかなか」は中途半端でかえってよくない意、「しも」は強意の副助詞である。「見るや君」と問いかけた帥の宮に、眠れずにいたが月は見なかったと、あえて期待をはずす答え方をしており、一人で見る月はかえってつらいという思いを込めて、相手の問いをかわしている。
なかなか:なまじっか、かえって
- 作者
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和泉式部
- 出典
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和泉式部日記
- 前の歌
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見るや君さようちふけて山端に くまなくすめる秋夜の月
- 次の歌
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ことのはふかくなりにけるかな