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月も見てねにきといひし人の上に
をきしもせしを大鳥のこと

歌の意味
月を見てから寝てしまったと言っていた人の上に、大鳥の羽のように、霜が置いたりはしないだろうに。
鑑賞
 葛城の神をめぐる贈答ののち、帥の宮は以前よりも時々訪れるようになり、和泉式部はこの上なく所在なさが慰められる心地がしていた。そうしているうちに、よからぬ男たちが文をよこしたり、自ら家のまわりをうろついたりするので、つまらないことが起こりかねない。和泉式部は、早く帥の宮の邸に参ってしまおうかと思ったが、やはり気が引けて、すっぱりと決心することはできずにいた。
 女は和泉式部のことで、大江雅致の娘であり、和泉守橘道貞の妻として小式部内侍をもうけた。帥の宮は冷泉天皇の第四皇子敦道親王で、大宰帥であったことからこう呼ばれる。
 霜の白い朝、和泉式部から「我うへは千鳥もつけしおほ鳥の羽にも霜はさやはをきける」が届き、帥の宮はこの歌を返した。
 帥の宮はそのまま、その日の夕暮れに和泉式部のもとを訪れた。そして「この頃の山の紅葉はどんなに趣深いことだろう。さあ、見に行こう」と誘った。

 初句と第二句の「月も見てねにきといひし」は、月を見て寝てしまったと言っていた、という意味で、「にき」は完了の助動詞「ぬ」と過去の助動詞「き」の組み合わせである。第三句の「人の上に」は、和泉式部の歌の「我うへは」を「人の上」と受けている。
 下の句の「をきしもせしを大鳥のこと」は、大鳥のように霜が置いたりはしないだろうに、という意味で、「をきしも」には霜が「置き」と、寝床から「起き」が重なり、「しも」には「霜」が掛けられている。「じ」は打消推量の助動詞、「ごと」は〜のように、の意である。和泉式部の歌の「大鳥」「霜」「をきける」を受け、寝てしまう人には霜など置くはずがないと、からかうように切り返しながら、その日のうちに訪れることで和泉式部の訴えに答えている。

大鳥(おおとり):大きな鳥、鶴などの大形の鳥
作者
敦道親王
出典
和泉式部日記
前の歌
我うへは千鳥もつけしおほ鳥の 羽にも霜はさやはをきける
次の歌
神無月よにふりにたる時雨とや けふの詠めをあかす見る覽