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うたかはゝ又うちみしと思えとも
心に心かなはさりけり

歌の意味
あなたを疑うようなことがあっても、もう恨むまいと思うけれど、心というものは、自分の心の思うようにはならないものだったのだ。
鑑賞
 帥の宮の邸へ参ろうと決心した和泉式部は、宮仕えなど今さら本意でもなく、岩屋の中にでも住みたいくらいだが、またつらいことがあったらどうしようと思いながらも、近くにいれば親やきょうだいの様子も見られ、気がかりな人々の身の上も見定められるだろうと、思い切った。参上するまでは、つまらない噂を帥の宮のお耳に入れまいと、言い寄ってきた男たちの文にも、留守だと言わせて返事もせずにいた。そこへ帥の宮から文が届いた。見ると「それでも頼りにしていたのが愚かだった」などと多くのことが書かれ、「よし、ただ、いはみがた」とだけあった。和泉式部は胸がつぶれる思いがした。これまでも根も葉もない噂は多かったが、事実でないことはしかたがないと思って過ごしてきた。しかし今度は本気でおっしゃっているので、決心をほのかに聞いた人々もいるらしく、笑いものになりそうだと思うと悲しく、返事もできなかった。帥の宮から「どうして返事をくださらない。やはりそうだったのかと思われる。ずいぶん早く変わるお心だ。人の言うことがあったので、まさかとは思いながら、そう思うならとだけ申し上げたのに」と言ってきたので、和泉式部は少し胸がほっとして、帥の宮の本心も知りたく、本当にそうお思いならと思った。
 女は和泉式部のことで、大江雅致の娘であり、和泉守橘道貞の妻として小式部内侍をもうけた。帥の宮は冷泉天皇の第四皇子敦道親王で、大宰帥であったことからこう呼ばれる。
 帥の宮の「君いまは名のたつことをおもひける人からかゝる心とそみる」に、和泉式部は、戯れとは分かりながらもつらく、「やはりひどく心外でございます。何としてでも、私の心をお見せしたいと存じます」と申し上げた。それに答えて、帥の宮はこの歌を送った。
 和泉式部は「うらむらん心はたゆるかきりなくたのむ君をそ我も疑ふ」と返した。日が暮れると帥の宮は訪れ、「やはり人の言うことがあるので、まさかとは思いながら申し上げたのだ。そのようなことを言われたくないと思うなら、さあ、いらっしゃい」と言って、夜が明けると帰っていった。

 初句と第二句の「うたかはゝ又うちみしと」は、疑うようなことがあっても、もう恨むまいと、という意味で、「ば」は未然形に付く仮定、「じ」は打消意志の助動詞である。第三句の「思えとも」は、思うけれども、の意である。
 下の句の「心に心かなはさりけり」は、心が心の思うようにならないものだった、という意味で、「心に心」と同じ語を重ねて、理性と感情が食い違うもどかしさを表している。「けり」は気づきの詠嘆である。噂を信じまいと思っても、つい疑いや恨みがわいてしまうと、からかいの奥にある本音をのぞかせた歌である。

適ふ(かなう):思いどおりになる、一致する
作者
敦道親王
出典
和泉式部日記
前の歌
君いまは名のたつことをおもひける 人からかゝる心とそみる
次の歌
うらむらん心はたゆるかきりなく たのむ君をそ我も疑ふ