- 歌の意味
-
古い都の地はすっかり春めいてきた。吉野の御垣が原を霞が一面に包み込んでいる。
- 鑑賞
-
巻第一 春歌 3
かつて離宮のあった吉野を「古里」と呼び、その御垣が原に霞が立ちこめる様子に春の到来を見た歌である。昔の宮のあとに春がめぐる情景が、懐古の思いを静かに漂わせている。
前歌の結句「春めきにけり」を二句に受け、霞による春の訪れを続けて詠んでいる。
初句「古里は」は、昔なじみの土地、ここでは古い宮のあった吉野を指す。懐古の趣をまず示している。
二句「春めきにけり」は、前歌の結句と同じ句で、「けり」は詠嘆である。ここで意味が切れる二句切れである。
三句「み吉野の」の「み」は美称の接頭語である。吉野はかつて離宮が置かれた地で、雪や桜の名所として詠まれる。
四句「御垣が原を」は、吉野の離宮の垣のあたりの野をいう歌枕である。宮の跡であることが初句の「古里」と響き合う。
結句「霞こめたり」は、霞が一面に立ちこめている状態で、「たり」は存続の助動詞である。前歌の「外山の霞」に続き、二首が並んで春の霞を描いている。
ふるさと:古くからなじみのある土地。古い都のあった地
みかきがはら:吉野の離宮のあたりの野。歌枕
こむ:一面に包み込む。立ちこめる
- 作者
-
平兼盛
- 出典
-
詞花和歌集
- 前の歌
-
昨日かも霰降りしは信楽の 外山の霞春めきにけり
- 次の歌
-
たまさかに我が待ち得たる鶯の 初音をあやな人や聞くらむ