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月は入り人は出でなばとまりゐて
独りや我が空を眺めむ

歌の意味
月は山に入り、あなたは出ていってしまったならば、あとに残ってわたしは独り、空を眺めることになるのだろうか。
鑑賞
巻第九 雑歌上 289

 月が沈み、親しい人も去ってしまえば、残された自分は独りで空を眺めることになるのかと、別れを惜しむ一首である。月の「入る」と人の「出づ」を対にし、ともに去っていくものを前にした寂しさを表している。

 初句「月は入り」は、月が山の端に沈むことをいい、二句の「出で」と対をなす。
 二句「人は出でなば」は、完了の「ぬ」の未然形に「ば」が付いた仮定で、人が出ていってしまったならばという意を表す。
 三句「とまりゐて」は、あとに残っていてという意で、去る月と人とに対し、残される自分を示す。
 四句「独りや我が」は、係助詞「や」で疑問を示す。
 結句「空を眺めむ」は、推量の「む」の連体形で「や」を受けて結ぶ係り結びで、独り空を眺めることになるのかと結ぶ。

とまりゐる:あとに残ってとどまる
ながむ:物思いにふけりながらぼんやり見やる
作者
大中臣能宣
出典
詞花和歌集
前の歌
名に高き姨捨山も見しかども 今宵ばかりの月はなかりき
次の歌
池水に宿れる月はそれながら 眺むる人の影ぞ変はれる