去年見しに色も変はらず咲きにけり
花こそものは思はざりけれ
- 歌の意味
-
去年見たときと色も変わらずに咲いたことだ。花こそはもの思いをしないものなのだなあ。
- 鑑賞
-
巻第九 雑歌上 524
去年見たときと少しも色を変えずに花が咲いた、花というものは物思いをしないのだなあ、と詠む歌である。去年から今年までの間に悲しい出来事があり、人の心は変わってしまったのに、花は変わらず咲いているという哀傷の思いがうかがえる。悲しみに沈む人の心と、何も知らずに咲く花とを対比している。
『古今和歌集』の「深草の野辺の桜し心あらば今年ばかりは墨染に咲け」が、喪に服す心を桜に求めたのに対し、本歌は変わらず咲く花の無心をうらやむように嘆いている。
初句「去年見しに」は、去年見たのにの意で、過去の「き」の連体形「し」に格助詞「に」が付いている。
二句「色も変はらず」は、色も変わらずにの意である。
三句「咲きにけり」は、咲いたことだの意で、完了の「ぬ」に詠嘆の「けり」が付き、ここで句切れとなる三句切れの歌である。
四句「花こそものは」は、花こそはもの思いはの意で、係助詞「こそ」が結句の「けれ」と係り結びをなしている。
結句「思はざりけれ」は、思わないものなのだなあの意で、打消の「ず」に詠嘆の「けり」の已然形「けれ」が付き、四句の「こそ」を受けて結んでいる。
- 出典
-
金葉和歌集
- 前の歌
-
皆人は吉野の山の桜花 をり知らぬ身や谷の埋もれ木
- 次の歌
-
年ふれど春に知られぬ埋もれ木は 花の都に住む甲斐ぞなき