- 表題
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- 伊勢物語
君があたり見つつを居らむ生駒山
雲なかくしそ雨は降るとも
あなたがいる辺りを遠く見続けてじっとしていましょう。雲よ、たとえ雨が降っても大和との間にそびえる生駒山を隠さないでほしい。
君来むといひし夜ごとに過ぎぬれば
頼まぬものの恋ひつつぞふる
あなたが来ると言った夜ごとに、来てくれないので待ちぼうけのまま、むなしくすぎてしまう。このごろは当てにはしていないけど、恋しつづけながら時を過ごしている。
あひ思はで離れぬる人をとどめかね
わが身は今ぞ消えはてぬる
私は愛しているのに、同じようには私のことを思ってくれないで離れ去ってしまう人を引き止めることができなくて私は今、消え果ててしまう。
水口に我や見ゆらむかはづさへ
水の下にて諸声になく
盥(たらい)の水の取入れ口のところに私の姿が映っている見えるのでしょうか。田に水を引き込む取入れ口のあたりでは蛙さえ声を合わせて鳴くもので、私もあなたと声を合わせて泣いているのだ。
などてかくあふごかたみになりにけむ
水もらさじとむすびしものを
どうしてこのように逢う時が得がたくなってしまったのだろうか。水の漏れるすきまもないように固く契りを結んでいたものを
花にあかぬ歎きはいつもせしかども
今日のこよひに似る時はなし
美しい花を見ても飽きることはなく、いつまでも見ていたいという嘆きは花を見るといつもあったが、今日のこの夜のように強く思うことはこれまでになかった。
あふことはたまの緒ばかりおもほえて
つらき心の長く見ゆらむ
あなたに逢うことは玉と玉の間の紐のように短く思えて、なかなか逢ってくれない無情な心はいつまでも長く続いて見えるでしょう