- 表題
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- 伊勢物語
思ふかひなき世なりけり年月を
あだにちぎりて我や住ましつ
いとしいと思う甲斐もない夫婦の仲だった長い年月を、不誠実な関係を持って私は暮らしていたのだろうか。そんなことは全くなかったのに。
人はいさ思ひやすらむ玉かづら
面影にのみいとど見えつつ
あの人は出て行ってしまったが、そうは言っても私のことをなつかしく思っているのだろうか。あの人の面影が幻となっていよいよ見えてくる。
今はとて忘るる草のたねをだに
人の心にまかせずもがな
今となっては二人の関係も終わったのだから忘れてしまおうと言って、忘れてしまおうと忘れ草の種を心に蒔くことだけは、あなたの思いどおりにならないでほしい。
忘草植うとだにきくものならば
思ひけりとは知りもしなまし
せめて私が人を忘れる草を植えるとだけでも聞いたなら、忘れられず苦しむほど、あなたのことを思っていたと気づきもするだろう。
あい見ては心ひとつをかはしまの
水の流れて絶えじとぞ思ふ
お互いに夫婦となったうえは心ひとつにして、川中の島で水が分かれ流れても、また合流して絶えることなく流れるように、二人の仲も耐えることのないようにしたい。
くらべこしふりわけ髪も肩すぎぬ
君ならずして誰かあぐべき
あなたとどちらか長いか、ずっとくらべていたおかっぱの髪も今では肩のあたりを過ぎて長くなってしまった。しかしあなたではなく、誰が私の髪上げをしてくれることができるだろうか。