あしひきの山田守る庵に置く蚊火の
下焦がれつつ我が恋ふらくは
- 歌の意味
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山あいの田の番をする小屋に焚く蚊遣り火がくすぶるように、心の奥で焦がれ続けている。私が恋い慕うさまは。
- 鑑賞
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巻第十一 恋歌一 992
詞書は前の歌に続き「題しらず」
心に秘めた恋を詠む人麿歌二首の一首目である。山田の番小屋でくすぶる蚊火に、表に出せず心の奥で焦がれる恋をたとえる。詞書は題しらずで、詠まれた事情は記されていない。
作者の「人麿」は柿本人麻呂である。飛鳥時代の歌人で、持統天皇、文武天皇の時代に宮廷歌人として活躍し、『万葉集』に多くの歌を残した。後世、歌聖と仰がれた。
初句「あしひきの」は「山」にかかる枕詞である。
二句「山田守る庵に」は、山あいの田を鳥や獣から守るために番をする仮小屋に、の意である。
三句「置く蚊火の」の蚊火は、蚊を追い払うために焚く火で、炎を上げずに煙を立ててくすぶり続ける。初句からここまでが、次の「下焦がれ」を導く序詞となっている。
四句「下焦がれつつ」は、蚊火が下のほうでくすぶるさまと、表に出さずに心の奥で思い焦がれるさまを重ねる。「つつ」は継続を表す。
結句「我が恋ふらくは」の「恋ふらく」は「恋ふ」のク語法で、恋い慕うこと、の意である。私の恋は、と主語を最後に示す倒置になっている。万葉の古風な語法を残す一首で、次歌の人麿歌とともに、表に出さない恋が並べられている。
もる:番をして守る
いほ:仮に造った粗末な小屋
かひ:蚊を追い払うために焚く火、蚊遣り火
したこがる:表に出さず心の奥で思い焦がれる
こふらく:恋い慕うこと
- 作者
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柿本人麻呂
- 出典
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新古今和歌集
- 前の歌
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音にのみありと聞きこしみ吉野の 滝は今日こそ袖に落ちけれ
- 次の歌
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石上布留の早稲田のほには出でず 心のうちに恋ひやわたらん