石上布留の早稲田のほには出でず
心のうちに恋ひやわたらん
- 歌の意味
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石上の布留の早稲田の穂のように表に出すことはせず、心のうちで恋い続けてゆくのだろうか。
- 鑑賞
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巻第十一 恋歌一 993
詞書は前の歌に続き「題しらず」
心に秘めた恋を詠む人麿歌二首の二首目である。布留の早稲田の穂に寄せて、思いを表に出さず心の中で恋い続けるのかと詠む。詞書は題しらずで、詠まれた事情は記されていない。
作者の「人麿」は前歌から続く表記で、柿本人麻呂である。飛鳥時代の歌人で、持統天皇、文武天皇の時代に宮廷歌人として活躍し、『万葉集』に多くの歌を残した。後世、歌聖と仰がれた。
『万葉集』巻九に、抜気大首が筑紫に任じられた時、豊前国の娘子紐児を娶って詠んだ歌として「石上布留の早稲田の穂には出でず心の中に恋ふるこのころ」があり、結句の異なる同じ歌である。『新古今集』では人麿の作として入集している。
初句「石上」は、地名「布留」にかかる枕詞である。
二句「布留の早稲田の」の布留は大和国山辺郡、石上神宮のあたりの地で、早稲田は早く実る稲を植えた田である。初句からここまでが「ほ」を導く序詞となる。
三句「ほには出でず」の「ほ」は、稲の穂の意と、表に現れる意を掛ける。早稲の穂は早く出るものだが、自分の思いは表に出さない、という反転がある。
四句「心のうちに」は、心の中でだけ、の意で、三句の「ほには出でず」と表裏をなす。
結句「恋ひやわたらん」の「や」は疑問の係助詞で、「らん」で結ぶ。「わたる」は、ずっと〜し続ける意である。『万葉集』では「恋ふるこのころ」と今の思いを述べるのに対し、ここでは先へ続く恋の嘆きとなっている。前歌の「下焦がれ」と同じく表に出さない恋を詠み、本巻の第千一首の朝忠歌も「恋ひやわたらん」と同じ結句で結ぶ。
ほ:稲の穂の意と、表に現れる意を掛ける
わせだ:早く実る稲を植えた田
わたる:ずっと〜し続ける
- 作者
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柿本人麻呂
- 出典
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新古今和歌集
- 前の歌
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あしひきの山田守る庵に置く蚊火の 下焦がれつつ我が恋ふらくは
- 次の歌
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春日野の若紫の摺り衣 しのぶの乱れ限り知られず