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紫の色に心はあらねども
深くぞ人を思ひそめつる

歌の意味
私の心は紫の色というわけではないけれど、深くあなたを思いはじめ、心を染めてしまった。
鑑賞
巻第十一 恋歌一 995

詞書「中将更衣につかはしける」
 紫の染め色に寄せて女に贈った歌二首の二首目である。心は紫の色ではないのに、深く思いはじめてしまったと、染色の語に寄せて思いの深さを詠む。詞書によれば中将更衣に贈った歌である。
 作者の「延喜御歌」は醍醐天皇である。宇多天皇の第一皇子で、延喜の年号のもとで長く在位し、その治世は後に延喜の治と称えられた。紀貫之らに命じて『古今和歌集』を撰進させた。
 中将更衣は醍醐天皇に仕えた更衣の呼称である。更衣は女御に次ぐ后妃の位で、中将は近親の官職に由来する呼び名である。

 初句「紫の」は、紫草の根で染めた紫の色である。紫は深く染まる色として、恋の思いの深さにたとえられた。
 二句「色に心は」は、心は紫の色に、の意で、心そのものが色であるわけではない、と次の句へ続く。
 三句「あらねども」は逆接で、心は紫の色ではないけれども、と打ち消した上で下の句へ転じる。
 四句「深くぞ人を」の「ぞ」は強意の係助詞で、結句の「つる」で結ぶ。「深く」は色の濃さを表す語で、思いの深さに転じられている。
 結句「思ひそめつる」の「そめ」は、思いはじめる意の「初め」と、色に「染め」る意を掛ける。「紫」「色」「深く」「染め」が縁語として連なる。前歌の業平歌も若紫の摺り衣を詠んでおり、紫の染め色によって二首が結ばれている。

そむ:思いはじめる意の「初む」と、色に染める意の「染む」を掛ける
かうい:女御に次ぐ后妃の位
作者
醍醐天皇
出典
新古今和歌集
前の歌
春日野の若紫の摺り衣 しのぶの乱れ限り知られず
次の歌
みかの原わきて流るる泉川 いつ見きとてか恋しかるらん