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しるしなき煙を雲にまがへつつ
夜を経て富士の山と燃えなん

歌の意味
思っても何の効き目もない恋の煙を雲とまぎらわせながら、幾夜も経て、富士の山のように燃え続けてゆくことだろう。
鑑賞
巻第十一 恋歌一 1008

詞書「題しらず」
 恋の煙を詠む一連の一首目である。効き目もない恋の煙を雲にまぎらわせながら、夜を重ねて富士の山のように燃え続けるだろうと詠む。詞書は題しらずで、詠まれた事情は記されていない。
 作者の「貫之」は紀望行の子で、『古今和歌集』の撰者の一人である。仮名序を書き、『土佐日記』を著した。

 初句「しるしなき」は、効き目のない、の意で、いくら思っても相手に通じない恋であることを示す。
 二句「煙を雲に」の煙は、胸に燃える恋の火から立つ煙である。当時の富士の山は煙を上げる山として詠まれ、恋の煙はその煙になぞらえられる。
 三句「まがへつつ」は、見分けがつかないようにまぎらわせながら、の意で、恋の煙を空の雲に見せかけて人目をごまかすさまをいう。
 四句「夜を経て富士の」は、幾夜も経て、の意で、富士の山を呼び出す。
 結句「山と燃えなん」の「なん」は強意と推量で、きっと富士の山のように燃え続けるだろう、の意である。前歌の兼通歌の「空の煙」を受けるように煙の歌が始まり、次歌の深養父歌も富士を詠んで、富士の煙が二首続けて並べられている。

しるし:効き目
まがふ:見分けがつかないようにまぎらわす
作者
紀貫之
出典
新古今和歌集
前の歌
我がおもひ空の煙となりぬれば 雲居ながらもなほ尋ねてん
次の歌
煙立つおもひならねど人知れず わびてはふしのねをのみぞ泣く