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我ならぬ人に心をつくば山
したに通はん道だにやなき

歌の意味
私ではないほかの人に心を尽くすあなたよ。筑波山の麓に、人目を忍んでひそかに通う道さえもないのだろうか。
鑑賞
巻第十一 恋歌一 1014

詞書「又通ふ人ありける女のもとにつかはしける」
 山に寄せて恋を詠む一連の四首目である。ほかの男に心を尽くす女に、筑波山の麓をひそかに通う道さえないのかと問いかける。詞書によれば、ほかにも通う男のある女のもとに贈った歌である。
 作者の「大中臣能宣朝臣」は、伊勢神宮の祭主を務めた神祇大副大中臣頼基の子である。自らも祭主となり、梨壺の五人の一人として『後撰和歌集』の撰進と『万葉集』の訓読にあたった。三十六歌仙の一人である。

 初句「我ならぬ」は、私ではない、の意である。
 二句「人に心を」は、ほかの人に心を、の意で、女がほかの男に心を寄せていることを示す。
 三句「つくば山」の「つくば」は、心を「尽くす」意と、「筑波」山を掛ける。心を尽くす女の姿から、筑波山の景へと転じる。
 四句「したに通はん」の「した」は、山の麓の意と、人目を忍んでひそかに、の意を掛ける。
 結句「道だにやなき」の「だに」は、せめて〜だけでも、の意で、「や」は疑問の係助詞で「なき」で結ぶ。前歌の重之歌が筑波山の茂りも妨げにならないと詠んだのに対し、この歌はほかの男がいて通う道さえないのかと嘆き、同じ筑波山で対照的な恋が並ぶ。本巻の第千十一首の義孝歌も、女のもとに通うほかの男を知って詠まれており、山の峰や麓に寄せる趣向が共通する。

つくば:心を尽くす意の「尽く」と、筑波山の「筑波」を掛ける
した:山の麓の意と、人目を忍んでひそかにの意を掛ける
作者
大中臣能宣
出典
新古今和歌集
前の歌
筑波山端山繁山しげけれど 思ひいるには障らざりけり
次の歌
人知れず思ふ心はあしひきの 山下水のわきやかへらん