古典和歌stream

石上布留の神杉ふりぬれど
色には出でず露も時雨も

歌の意味
石上の布留の神杉は年を経て古び、露も時雨も降りかかったけれど、色を変えることはない。そのように長く忍んできた私の恋も表には出さない。
鑑賞
巻第十一 恋歌一 1028

詞書「和歌所歌合に久忍恋といふことを」
 思いを色に出すか否かをめぐる忍ぶ恋を詠む一連の四首目である。年を経て古びた布留の神杉が、露や時雨にも色を変えないように、長く忍ぶ恋を表には出さないと詠む。詞書によれば、和歌所の歌合で「久忍恋」の題により詠まれた。
 作者の「摂政太政大臣」は九条良経である。関白九条兼実の子で、摂政太政大臣に至った。『新古今和歌集』の仮名序を書いた。

 初句「石上」は「布留」にかかる枕詞である。本巻の第九百九十三首の人麿歌と同じ初句で起こす。
 二句「布留の神杉」の神杉は、石上神宮の神域に生える杉で、古くから詠まれた。
 三句「ふりぬれど」の「ふり」は、年を経て古びる意の「古り」と、露や時雨が「降り」かかる意を掛ける。題の「久」を表す。
 四句「色には出でず」は、杉が常緑で色を変えないように、思いを表に出さない、の意で、題の「忍」を表す。第九百九十三首の三句「ほには出でず」と響き合う。
 結句「露も時雨も」は、露が降っても時雨が降っても、の意で、四句と倒置になる。露や時雨は草木を色づけるものとして詠まれ、それでも色づかない杉に長く忍ぶ恋を託す。前歌が色に出そうかと揺れたのに対し、再び色に出さない側に戻り、次歌の後鳥羽院歌も時雨を詠んでいる。

かみすぎ:神社の神域に生える杉
ふる:古びる意の「古る」と、露や時雨が降る意の「降る」を掛ける
作者
九条良経
出典
新古今和歌集
前の歌
我が恋も今は色にや出でなまし 軒のしのぶももみぢしにけり
次の歌
我が恋は槙の下葉にもる時雨 濡るとも袖の色に出でめや