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おもひあれば袖に蛍を包みても
言はばや物を問ふ人はなし

歌の意味
恋の思いの火があるので、袖に蛍を包むように思いを包み隠していても、打ち明けたいものだ。けれども尋ねてくれる人はいない。
鑑賞
巻第十一 恋歌一 1032

詞書は前の歌に続き「家に歌合し侍りけるに夏恋の心を」
 夏の恋を詠む歌二首の二首目である。袖に蛍を包むように思いの火を包み隠していても、打ち明けたいのに尋ねてくれる人はいないと詠む。詞書によれば、九条良経の家で催された歌合で「夏恋」の題により詠まれた。
 作者の「寂蓮法師」は俗名を藤原定長といい、藤原俊成の甥で、一時その養子となった。出家後も歌人として活躍し、『新古今和歌集』の撰者に任じられたが、完成を見ずに没した。

 初句「おもひあれば」の「おもひ」は、恋の思いに「火」を掛け、蛍の光の縁語となる。
 二句「袖に蛍を」は、袖に蛍を、の意で、光を放つ蛍に胸の思いの火を重ねる。
 三句「包みても」は、袖に蛍を包み隠すように、思いを包み隠していても、の意である。蛍の光は袖から漏れるものとされ、隠しても表れてしまう思いを示す。
 四句「言はばや物を」の「ばや」は願望で、打ち明けたいものだ、の意である。ここで四句切れとなる。
 結句「問ふ人はなし」は、尋ねてくれる人はいない、の意である。前歌の良経歌が「人の問ふまで」と、人に問われるほど表れた恋を詠んだのに対し、この歌は打ち明けたくとも問う人がいないと詠み、同じ「問ふ」をめぐって反転した構図となっている。袖に蛍を包むことは、『大和物語』に女童が蛍を汗衫の袖に包む話があり、その折の「つつめども隠れぬものは夏虫の身よりあまれる思ひなりけり」の歌が知られる。

おもひ:恋の思いの意と、火の意を掛ける
つつむ:包み隠す
作者
寂蓮
出典
新古今和歌集
前の歌
空蝉の鳴く音やよそにもりの露 干しあへぬ袖を人の問ふまで
次の歌
思ひつつ経にける年のかひやなき ただあらましの夕暮の空