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沼ごとに袖ぞ濡れぬるあやめ草
心に似たるねを求むとて

歌の意味
沼という沼で、袖が濡れてしまった。あやめ草の、私の心に似た長く深い根を探し求めようとして。
鑑賞
巻第十一 恋歌一 1042

詞書「薬玉を女につかはすとて男にかはりて」
 五月の景物に寄せる恋を詠む一連の一首目である。女に贈る薬玉のために、心に似た長い根のあやめ草を求めて沼ごとに袖を濡らしたと詠む。詞書によれば、男に代わって、女に薬玉を贈る折に詠んだ歌である。
 作者の「三条院女蔵人左近」は三条天皇に仕えた女蔵人である。女蔵人は宮中で雑事にあたった下級の女官で、左近はその女房名である。
 薬玉は、五月五日の端午の節句に、邪気を払うため菖蒲や蓬などを玉の形にまとめ、五色の糸を垂らしたものである。

 初句「沼ごとに」は、沼という沼で、の意である。
 二句「袖ぞ濡れぬる」の「ぞ」は強意の係助詞で、「ぬる」で結ぶ。沼の水に濡れる袖に、恋の涙に濡れる袖を重ねる。ここで二句切れとなる。
 三句「あやめ草」は菖蒲で、端午の節句に軒に葺き、薬玉にも用いた。根の長さを競う根合わせも行われた。
 四句「心に似たるねを」は、私の心に似た根を、の意で、長く深い根に、深い思いを託す。
 結句「求むとて」は、探し求めようとして、の意で、倒置によって袖が濡れた理由を示す。女に贈る薬玉に思いを込めている。次歌の公任歌も五月五日にあやめ草を詠み、端午の節句の歌が続く。

くすだま:端午の節句に邪気を払うため、菖蒲や蓬などを玉にして五色の糸を垂らしたもの
あやめぐさ:菖蒲、端午の節句に軒に葺き薬玉に用いた
作者
三条院女蔵人左近
出典
新古今和歌集
前の歌
須磨の海人の波かけ衣よそにのみ 聞くは我が身になりにけるかな
次の歌
ほととぎすいつかと待ちしあやめ草 今日はいかなるねにか鳴くべき