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しるべせよ跡なき波に漕ぐ舟の
行方も知らぬ八重の潮風

歌の意味
道しるべとなっておくれ。跡の残らない波に漕ぎ出す舟のように、行方も知れない私に吹く、幾重もの潮風よ。
鑑賞
巻第十一 恋歌一 1074

詞書「題しらず」
 行方の知れない恋を舟に寄せて詠む一連の四首目である。跡の残らない波に漕ぎ出す舟のように行方も知れないと言い、八重の潮風に道しるべを求める。詞書は題しらずで、詠まれた事情は記されていない。
 作者の「式子内親王」は後白河天皇の皇女である。賀茂の斎院を務め、のち出家した。藤原俊成に和歌を学んだ。
 本歌は本巻の第千七十一首の好忠歌である。

 初句「しるべせよ」は、道しるべとなってくれ、の意で、命令形である。誰への呼びかけかを言わずに起こし、結句の潮風でそれを受ける。ここで初句切れとなる。
 二句「跡なき波に」は、通った跡の残らない波に、の意である。本巻の第千五十七首が千鳥に跡を踏みつけよと求めたのに対し、ここでは跡の残らない波が詠まれる。
 三句「漕ぐ舟の」は、漕いでゆく舟の、の意で、本歌の「渡る舟人」を受ける。
 四句「行方も知らぬ」は、本歌の四句をそのまま用いる。
 結句「八重の潮風」は体言止めである。前歌の結句「沖つ潮風」と同じく潮風で結び、本巻の第千七十二首の「八重の潮路」の語を受ける。本歌が梶を失った舟の行方を嘆くにとどまるのに対し、この歌は道しるべを求める呼びかけに転じている。

しるべ:道案内、道しるべ
ゆくへ:行く先
作者
式子内親王
出典
新古今和歌集
前の歌
梶を絶え由良の湊に寄る舟の たよりも知らぬ沖つ潮風
次の歌
紀の国や由良の湊に拾ふてふ たまさかにだに逢ひ見てしがな