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紀の国や由良の湊に拾ふてふ
たまさかにだに逢ひ見てしがな

歌の意味
紀の国の由良の湊で拾うという玉ではないが、たまさかにでもあなたに逢いたいものだ。
鑑賞
巻第十一 恋歌一 1075

詞書は前の歌に続き「題しらず」
 行方の知れない恋を舟に寄せて詠む一連の五首目である。由良の湊で拾うという玉に寄せて、たまさかにでも逢いたいと願う。詞書は題しらずで、詠まれた事情は記されていない。
 作者の「権中納言長方」は藤原長方である。参議藤原顕頼の子で、権中納言に至った。

 初句「紀の国や」の「や」は詠嘆で、紀伊国を呼び出す。
 二句「由良の湊に」は、由良の湊で、の意である。本巻の第千七十三首の良経歌と同じ由良の湊で、そこでは寄るべのない舟の寄る場所であった。
 三句「拾ふてふ」は、拾うという、の意である。「てふ」は「といふ」の縮まった形で、湊で玉を拾うという言い伝えを踏まえ、初句からここまでが「たま」を導く序詞となる。
 四句「たまさかにだに」の「たま」は、拾うという「玉」を響かせる。「だに」は、せめて〜だけでも、の意である。
 結句「逢ひ見てしがな」は願望で、本巻の第千五十一首、第千七十二首と同じ結句である。前歌までが行方の知れない舟を詠んだのに対し、この歌は湊で玉を拾うという幸運に寄せ、まれにでも逢いたいと願って一連を結ぶ。

みなと:川や海の船着き場
たまさか:まれにしかないことの意で、拾うという「玉」を響かせる
作者
藤原長方
出典
新古今和歌集
前の歌
しるべせよ跡なき波に漕ぐ舟の 行方も知らぬ八重の潮風
次の歌
つれもなき人の心のうきにはふ 葦の下根のねをこそは泣け