古典和歌stream

つれもなき人の心のうきにはふ
葦の下根のねをこそは泣け

歌の意味
つれないあの人の心のつらさに、水に浮かんで根を這わせる葦の下根ではないが、声を上げて泣くばかりである。
鑑賞
巻第十一 恋歌一 1076

詞書「法性寺入道前関白太政大臣家歌合に」
 葦に寄せて恋を詠む一連の一首目である。つれない人の心のつらさに、水に浮かんで根を這わせる葦の下根に寄せて、声を上げて泣くと詠む。詞書によれば、法性寺入道前関白太政大臣の家の歌合で詠まれた。
 作者の「権中納言師俊」は藤原師俊である。大納言藤原宗通の子で、権中納言に至った。
 法性寺入道前関白太政大臣は藤原忠通である。関白、太政大臣を務め、のち出家して法性寺に住んだ。

 初句「つれもなき」は、思いやりもない、つれない、の意である。
 二句「人の心の」は、相手の心の、の意である。
 三句「うきにはふ」の「うき」は、つらい意の「憂き」と、水に浮く意の「浮き」を掛ける。「はふ」は水の中を這うように根を伸ばす意で、次の葦を導く。
 四句「葦の下根の」の下根は、水の底に張る根である。本巻の第千四十九首、第千六十三首にも葦が詠まれており、難波の景物として恋歌に繰り返し用いられている。
 結句「ねをこそは泣け」の「ね」は、葦の「根」と、泣き声の「音」を掛ける。「こそ」は強意の係助詞で、「泣け」で結ぶ。本巻の第千九首、第千二十四首と同じく声を上げて泣く形で結び、人知れず泣く恋が重ねられている。

うき:つらい意の「憂き」と、水に浮く意の「浮き」を掛ける
はふ:水の中を這うように根を伸ばす
したね:水の底に張る根
ね:葦の根の意と、泣き声の意の「音」を掛ける
作者
藤原師俊
出典
新古今和歌集
前の歌
紀の国や由良の湊に拾ふてふ たまさかにだに逢ひ見てしがな
次の歌
難波人いかなるえにか朽ち果てん 逢ふことなみに身をつくしつつ