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下燃えにおもひ消えなん煙だに
跡なき雲の果てぞ悲しき

歌の意味
人に知られず胸の奥でくすぶる恋の火に焦がれて、私はきっと消えるように死んでしまうだろう。そのとき立ちのぼる煙さえ、跡形もない雲となって消えてゆく、その果てが悲しい。
鑑賞
巻第十二 恋歌二 1081

詞書「五十首歌奉りしに、寄雲恋」
 恋歌二の巻頭歌であり、煙や海辺の景物に寄せて胸に秘めた恋を詠む歌群の一首目である。ひそかな恋に焦がれて死に、その煙さえ跡をとどめない雲となる行く末を悲しむ。詞書によれば、後鳥羽院に奉った五十首歌のうち、「寄雲恋」(雲に寄する恋)の題で詠まれた。
 作者の「皇太后宮大夫俊成女」は藤原俊成女である。皇太后宮大夫であった藤原俊成の娘の意の呼称だが、実際は俊成の孫にあたり、藤原盛頼の娘で俊成の養女となった。後鳥羽院の歌壇で活躍した。

 初句「下燃えに」は、表に出さず心の奥でくすぶり燃えることで、人に知らせない忍ぶ恋のたとえである。恋歌二の巻頭に、秘めた恋という主題を示す語が置かれている。
 二句「おもひ消えなん」の「おもひ」には、恋の「思ひ」と「火」が掛けられ、初句の「燃え」、二句の「消え」、三句の「煙」と縁語で結ばれる。「なん」は完了の助動詞「ぬ」に推量の「む」が付いた形で、きっと消えてしまうだろう、と死を予感する。
 三句「煙だに」は、火葬の煙さえ、の意である。「だに」は軽いものを挙げて重いものを推し量らせる助詞で、身が消えるばかりか、その煙さえ残らないことを示す。次歌も「煙は空に」と煙を詠み、二首が煙で続けられている。
 四句「跡なき雲の」は、煙が雲にまぎれて跡形もなくなるさまで、題の「雲」がここで詠み込まれる。本巻の第千九十四首も「峰の雲」に「跡もなきまで」消えよと詠み、秘めた心と跡をとどめぬ雲の取り合わせが響き合う。
 結句「果てぞ悲しき」は、係助詞「ぞ」を受けて連体形「悲しき」で結ぶ係り結びである。本巻の第千八十三首も「袖の果て」を知りたいと詠み、恋の行き着く「果て」が続けて問われる。誰にも知られぬまま恋が終わることへの悲しみが、巻頭の一首として恋歌二の基調を示している。

したもえ:表に出ないまま内側で燃えること、心に秘めた恋のたとえ
おもひ:恋の思いの意と、火の意を掛ける
作者
藤原俊成女
出典
新古今和歌集
前の歌
みるめ刈るかたやいづくぞ棹さして 我に教へよ海人の釣舟
次の歌
なびかじな海人の藻塩火焚きそめて 煙は空にくゆりわぶとも