古典和歌stream

忍ばじよ石間伝ひの谷川も
瀬を堰くにこそ水まさりけれ

歌の意味
もう忍ぶまいよ。石の間を伝って流れる谷川も、瀬を堰き止めるからこそ、かえって水かさが増すのだ。
鑑賞
巻第十二 恋歌二 1097

詞書「和歌所歌合に、依忍増恋といふことを」
 こらえきれない忍ぶ恋を詠む一連の一首目である。石の間を伝う谷川も瀬を堰き止めるからこそ水かさが増すと、忍ぶほどに思いが募ることを理由に、もう忍ぶまいと詠む。詞書によれば、和歌所の歌合で「依忍増恋」(忍ぶによりて増さる恋)の題で詠まれた。
 作者の「春宮権大夫公継」は藤原公継である。左大臣藤原実定の子で、のちに左大臣に至り、野宮左大臣と呼ばれた。

 初句「忍ばじよ」は、もう忍ぶまい、の意で、打消意志の助動詞「じ」に「よ」が付く。初句切れで、忍ぶ恋を詠み継いできた流れの中で、忍ぶことをやめると言い切る。
 二句「石間伝ひの」は、石の間を伝って流れる、の意である。
 三句「谷川も」の「も」は、谷川もまた、の意で、自然の理を引いて自分の恋に当てはめる。本巻の第千八十六首の谷水が秘めた心を漏らすものであったのに対し、ここでは堰かれて増す水として詠まれる。
 四句「瀬を堰くにこそ」は、瀬を堰き止めるからこそ、の意で、係助詞「こそ」が結句の已然形「けれ」と係り結びをなす。本巻の第千八十九首の井手のしがらみも、堰くことと抑えきれない思いとを結び付けていた。
 結句「水まさりけれ」は、水かさが増すのだ、の意である。題の「忍ぶによりて増さる恋」を、堰かれて増す水の理として示し、初句の「忍ばじ」の理由を明かしている。

いしま:石と石とのあいだ
せく:水の流れをせき止める
まさる:水かさが増す
作者
藤原公継
出典
新古今和歌集
前の歌
うちはへてくるしきものは人目のみ しのぶの浦の海人の栲縄
次の歌
人もまだふみ見ぬ山の岩隠れ 流るる水を袖に堰くかな