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山賤の麻のさ衣筬を荒み
あはで月日やすぎ葺ける庵

歌の意味
山に住む賤しい者の麻の衣は、筬の目が粗いので織り目が合わない。そのように恋人に逢わないまま、月日が過ぎてしまったのだろうか、この杉で屋根を葺いた庵で。
鑑賞
巻第十二 恋歌二 1108

詞書「水無瀬恋十五首歌合に」
 逢わず、言わずに月日の過ぎる恋を詠む二首の一首目である。山賤の麻衣の織り目が筬の粗さゆえに合わないように、逢わないまま杉葺きの庵で月日が過ぎたのかと詠む。詞書によれば、水無瀬恋十五首歌合での詠である。
 作者の「摂政太政大臣」は藤原良経である。関白九条兼実の子で、摂政、太政大臣に至り、『新古今和歌集』の仮名序を書いた。
 水無瀬恋十五首歌合は、建仁二年(1202)に後鳥羽院が催した歌合である。

 初句「山賤の」は、山に住んで木こりなどをする身分の低い者の、の意である。
 二句「麻のさ衣」は、麻で織った粗末な衣で、「さ」は語調を整える接頭語である。
 三句「筬を荒み」は、筬の目が粗いので、の意で、「〜を〜み」は原因を表す。筬の目が粗いと織り目が合わないことから、ここまでが四句の「あはで」を導く序詞となる。
 四句「あはで月日や」の「あはで」には、織り目が「合はで」の意と、恋人に「逢はで」の意が掛けられている。係助詞「や」が疑問を表し、月日が過ぎたのかと問う。次歌も「言はで月日は」と詠み、同じ構文の二首が並べられている。
 結句「すぎ葺ける庵」の「すぎ」には、月日が「過ぎ」の意と、屋根を葺く「杉」が掛けられている。月日が過ぎたのかという問いが、そのまま杉で葺いた庵の景へと転じ、体言止めで結ばれる。

やまがつ:山に住み、木こりなどをして暮らす身分の低い者
をさ:機織りで縦糸を整え、横糸を打ち込む道具
あふ:織り目が合う意と、恋人に逢う意を掛ける
すぎ:月日が過ぎる意と、木の杉を掛ける
ふく:屋根を覆う
作者
藤原良経
出典
新古今和歌集
前の歌
思ひあまりそなたの空を眺むれば 霞を分けて春雨ぞ降る
次の歌
思へども言はで月日はすぎの門 さすがにいかが忍び果つべき