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幾夜われ波にしほれて貴船川
袖に玉散る物思ふらん

歌の意味
幾夜、私は貴船川の波に濡れしおれて、袖に涙の玉を散らしながら物思いをするのだろうか。
鑑賞
巻第十二 恋歌二 1141

詞書「家に百首歌合し侍りけるに、祈恋といへる心を」
 年を経る恋と祈りを詠む三首の二首目である。恋の成就を祈って貴船に通い、幾夜、波に濡れ、袖に涙の玉を散らして物思いをするのだろうかと詠む。詞書によれば、自邸で催した百首歌合で「祈恋」を題として詠まれた。
 作者の「摂政太政大臣」は藤原良経である。関白九条兼実の子で、摂政、太政大臣に至り、『新古今和歌集』の仮名序を書いた。
 この百首歌合は、建久四年(1193)に良経が催した六百番歌合を指す。貴船川は山城国(京都市左京区)を流れる川で、上流に貴船神社があり、恋の願いをかける神として知られた。

 初句「幾夜われ」は、幾夜私は、の意で、結句の「物思ふらん」へ続く。
 二句「波にしほれて」は、波に濡れてしおれて、の意で、貴船川の波と涙とを重ねる。
 三句「貴船川」は、恋の願いをかける貴船神社のほとりを流れる川で、題の「祈恋」を示す地名として置かれる。
 四句「袖に玉散る」は、袖に玉が散る、の意で、玉は川のしぶきと涙の玉とを重ねる。
 結句「物思ふらん」は、物思いをするのだろうか、の意で、「らん」は現在推量である。初句の「幾夜」を受け、祈りを重ねてもなお物思いの尽きない嘆きを示す。次歌も「祈る契り」を詠み、祈恋の二首が並べられている。

しほる:濡れてしおれる
作者
藤原良経
出典
新古今和歌集
前の歌
夏引の手引きの糸の年経ても 絶えぬ思ひに結ぼほれつつ
次の歌
年も経ぬ祈る契りは初瀬山 尾上の鐘のよその夕暮