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思ふには忍ぶることぞ負けにける
逢ふにし換へばさもあらばあれ

歌の意味
恋しく思う心に、人目を忍ぶ心のほうが負けてしまった。逢うことと引き換えにするのなら、どうなってもかまわない。
鑑賞
巻第十三 恋歌三 1151

詞書「題しらず」
 逢い初めのころを詠む一連の三首目である。恋しく思う心に、忍ぼうとする心のほうが負けてしまった、逢うことと引き換えなら、どうなってもかまわないと詠む。詞書は題しらずで、詠まれた事情は記されていない。
 作者の「業平朝臣」は在原業平である。平城天皇の皇子阿保親王の子で、六歌仙、三十六歌仙の一人に数えられる。『伊勢物語』の主人公に擬せられてきた人物である。
 『伊勢物語』第六十五段に、帝の寵愛する女のもとへ通い続ける男の歌として見え、身の破滅を恐れて制した女に対して男が詠んだものとされる。また『古今和歌集』恋歌一の読人しらずの歌「思ふには忍ぶることぞ負けにける色には出でじと思ひしものを」と上の句を同じくする。

 初句「思ふには」は、恋しく思う心には、の意である。前歌の「思ひ忘れん」と「思ふ」の語を共有し、忘れまいと誓う心から、抑えきれない恋の思いへと移る。
 二句「忍ぶることぞ」は、人目を忍ぶ心が、の意である。係助詞「ぞ」が三句の「ける」と係り結びをなす。
 三句「負けにける」は、負けてしまった、の意で、「ぞ」の結びとして連体形「ける」で結ばれ、三句切れとなる。思う心と忍ぶ心を争わせ、思う心が勝ったと述べる言い方である。
 四句「逢ふにし換へば」は、逢うことと引き換えにするならば、の意である。「し」は強意の副助詞で、逢うことを何よりも重んじる心を強める。次歌はこの句をそのまま引いて詠まれている。
 結句「さもあらばあれ」は、どうなろうともかまわない、の意である。身の破滅も顧みない決意で結ばれ、巻頭歌の「命ともがな」とともに、逢瀬のために命を投げ出す心を示している。

しのぶ:人目を避けて恋心を隠す
かふ:引き換えにする
作者
在原業平
出典
新古今和歌集
前の歌
限りなく結び置きつる草枕 いづこの旅を思ひ忘れん
次の歌
昨日まで逢ふにし換へばと思ひしを 今日は命の惜しくもあるかな