古典和歌stream

辛かりし多くの年は忘られて
一夜の夢をあはれとぞ見し

歌の意味
つらかった長い年月はおのずと忘れられて、ただ一夜の夢のような逢瀬を、しみじみといとおしいものと見たことだ。
鑑賞
巻第十三 恋歌三 1162

詞書「女に遣はしける」
 逢瀬を夢にたとえて詠む一連の四首目である。つらかった長い年月は忘れられて、一夜の逢瀬の夢をしみじみといとおしく見たと詠む。詞書によれば、女に贈った歌である。
 作者の「藤原範永朝臣」は、藤原中清の子で、受領として諸国の守を歴任した。和歌六人党の一人に数えられる歌人である。

 初句「辛かりし」は、つらかった、の意である。過去の助動詞「き」の連体形「し」により、つれなくされた日々が過去のものとして示される。
 二句「多くの年は」は、長い年月は、の意で、四句の「一夜」と対をなす。歳月と一夜という異なる尺度が一首の中で比べられている。
 三句「忘られて」は、おのずと忘れられて、の意で、「る」は自発の助動詞である。
 四句「一夜の夢を」は、一夜の逢瀬を夢にたとえたものである。前歌までの夢は口止めされるはかないものであったが、本歌の夢は長年の苦しみを忘れさせるほどの重みをもつ。同じ夢の語を用いながら、夢の価値が反転している。
 結句「あはれとぞ見し」は、しみじみと心に染みるものとして見た、の意である。係助詞「ぞ」が過去の助動詞「き」の連体形「し」と係り結びをなし、一夜の逢瀬への深い感慨で結ぶ。

つかはす:贈る。送り届ける
作者
藤原範永
出典
新古今和歌集
前の歌
忘れても人に語るなうたた寝の 夢見て後も長からじ世を
次の歌
今朝よりはいとどおもひを焚きまして なげき樵り積むあふさかの山