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心からしばしと包むものからに
鴫の羽掻きつらき今朝かな

歌の意味
自分の心から、しばらくは人目を包み隠そうとしているのに、暁の鴫が幾度も羽を掻くように思い乱れて、つらい今朝であることよ。
鑑賞
巻第十三 恋歌三 1179

詞書「題しらず」
 後朝の思いを詠む一連の三首目である。自分の心から、しばらくは人目を包み隠そうとしているのに、暁の鴫の羽掻きのように思い乱れて、つらい今朝であると詠む。詞書は題しらずで、詠まれた事情は記されていない。
 作者の「赤染衛門」は、赤染時用の娘で、文章博士大江匡衡の妻となった。藤原道長の妻倫子に仕えた女房である。
 四句は『古今和歌集』恋歌五の読人しらずの歌「暁の鴫の羽掻き百羽掻き君が来ぬ夜は我ぞ数かく」を踏まえている。暁に鴫が何度も羽をしごくように、恋人の来ない夜に何度も思い乱れることを詠んだ歌である。

 初句「心から」は、自分の心から、自ら進んで、の意である。人目を忍ぶのが自分の意志であることを示す。
 二句「しばしと包む」は、しばらくはと包み隠す、の意である。人目をはばかって恋を隠すことをいう。
 三句「ものからに」は、ものの、のに、の意の逆接の接続助詞である。自ら隠しているのに、という心の矛盾が下の句へ続く。
 四句「鴫の羽掻き」は、鴫が嘴で羽をしごくことで、『古今和歌集』の歌を踏まえ、幾度も思い乱れることのたとえとなる。暁の景物であることから、後朝の朝の歌にふさわしい語として選ばれている。
 結句「つらき今朝かな」は、つらい今朝であることよ、の意で、詠嘆の「かな」で結ぶ。前歌が夢さえ見ない一夜を詠んだのに続き、本歌は自ら招いた忍ぶ恋のつらさを後朝の朝に嘆いている。

つつむ:人目をはばかって隠す
しぎのはねがき:鴫が嘴で羽をしごくこと。幾度も思い乱れることのたとえ
作者
赤染衛門
出典
新古今和歌集
前の歌
今朝はしも嘆きもすらんいたづらに 春の夜一夜夢をだに見で
次の歌
わびつつも君が心にかなふとて 今朝も袂を干しぞわづらふ