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しばし待てまだ夜は深し長月の
有明の月は人惑ふなり

歌の意味
しばらく待ちなさい。まだ夜は深い。九月の有明の月は明るいので、人が夜明けと見まちがえて惑うものだ。
鑑賞
巻第十三 恋歌三 1182

詞書「題しらず」
 後朝の思いを詠む一連の六首目である。帰ろうとする相手を引き止め、まだ夜は深い、九月の有明の月は人を惑わせるものだと詠む。詞書は題しらずで、詠まれた事情は記されていない。
 作者の「藤原惟成」は、花山天皇に近侍して権左中弁を務め、天皇の出家に従って自らも出家した人物である。

 初句「しばし待て」は、しばらく待て、の意で、帰ろうとする相手への呼びかけである。初句切れとなる。
 二句「まだ夜は深し」は、まだ夜は深い、の意で、ここでも句が切れる。短い句を重ねて、引き止める切迫した口調を示している。
 三句「長月の」は、九月の、の意である。本巻の第千百六十九首の詞書と同じく九月の夜の有明の月を詠む。
 四句「有明の月は」は、夜が明けても空に残る月は、の意である。第千百六十九首では月の入るまで待てずに帰った男が詠まれたが、本歌では月の明るさを夜明けと取り違えて帰ろうとする相手を引き止める。有明の月を挟んで反転した構図である。
 結句「人惑ふなり」は、人が惑うものだ、の意である。明るい有明の月を夜明けと見まちがえるという理屈を差し向けて、別れを少しでも遅らせようとしている。前歌が涙によって夜明けを知ったのに対し、本歌は夜明けを否定する側に立っている。

ながつき:陰暦九月
ありあけ:夜が明けても空に月が残っていること。また、その月
まどふ:迷う。見まちがえる
作者
藤原惟成
出典
新古今和歌集
前の歌
手枕に貸せる袂の露けきは 明けぬと告ぐる涙なりけり
次の歌
おきて見ば袖のみ濡れていとどしく 草葉の玉の数やまさらん