大井川井堰の水のわくらはに
今日は頼めし暮れにやはあらぬ
- 歌の意味
-
大井川の井堰の水がときおり湧き出るように、たまさかに今日と約束してくれた、その夕暮れではないのか。
- 鑑賞
-
巻第十三 恋歌三 1194
詞書は前の歌に続き「題しらず」
逢瀬ののち、次の夕暮れを待つ心を詠む一連の六首目である。大井川の井堰の水がときおり湧き出るように、たまさかに今日と約束してくれた夕暮れではないのかと詠む。詞書は前の歌に続いて題しらずで、詠まれた事情は記されていない。
作者の「清原元輔」は、清原深養父の孫で、清少納言の父である。梨壺の五人の一人として『後撰和歌集』の撰進に携わった。
大井川は山城国の歌枕で、嵯峨の嵐山のふもとを流れる。井堰は川の水をせき止めて田に引くための堰である。
初句「大井川」は、山城国の歌枕の名で、初句切れとはならず、下の井堰へと続いてゆく。
二句「井堰の水の」は、井堰にせき止められた水の、の意である。上の句は三句の「わくらはに」を導く序詞となる。
三句「わくらはに」の「わく」は、水が湧く意と、たまさかに、の意の「わくらは」を掛ける掛詞である。井堰の水がときおり湧き出るように、たまたまの約束であることを示す。
四句「今日は頼めし」は、今日と約束してくれた、の意である。「頼む」は下二段活用で、頼みに思わせる、約束する、の意となる。
結句「暮れにやはあらぬ」は、その夕暮れではないのか、の意である。「やは」は反語で、約束の夕暮れであるのに相手が来ないことへの恨みを示す。前の一連が次の夕暮れを待ったのに対し、本歌では待ちに待った約束の夕暮れがすでに来ている。
ゐせき:川の水をせき止めて田に引くための堰
わく:水が湧く意と、たまさかに、の意のわくらはを掛ける
たのむ:頼みに思わせる。約束する
- 作者
-
清原元輔
- 出典
-
新古今和歌集
- 前の歌
-
有明は思ひ出あれや横雲の ただよはれつる東雲の空
- 次の歌
-
夕暮れに命かけたるかげろふの ありやあらずや問ふもはかなし