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頼めずは人はまつちの山なりと
寝なましものをいさよひの月

歌の意味
あなたが来ると約束しなかったなら、人を待つという名の待乳の山であっても、私は寝てしまっただろうに。ためらうように出る十六夜の月よ。
鑑賞
巻第十三 恋歌三 1197

詞書「恋の歌とて」
 来ぬ人を待つ夜を詠む一連の一首目である。相手が来ると約束しなかったなら、待つという名の待乳の山であっても寝てしまっただろうに、と十六夜の月に向かって詠む。詞書によれば、恋の歌として詠まれた。
 作者の「太上天皇」は後鳥羽院である。高倉天皇の皇子で、譲位後に院政を行い、『新古今和歌集』の撰進を命じた。
 待乳の山は大和国と紀伊国の境にある歌枕で、「待つ」を掛けて詠まれる。趣向は赤染衛門の「やすらはで寝なましものを小夜更けて傾くまでの月を見しかな」を本歌としている。

 初句「頼めずは」は、約束しなかったならば、の意である。「頼む」は下二段活用で、頼みに思わせる意である。本巻の第千百九十四首の「頼めし」を受け、約束があったからこそ待つのだという前提を示す。
 二句「人はまつちの」の「まつち」は、人を待つ意と、待乳の山を掛ける掛詞である。
 三句「山なりと」は、山であっても、の意である。待つという名をもつ山であろうとも、という逆接の仮定を示す。
 四句「寝なましものを」は、寝てしまっただろうに、の意である。「まし」は反実仮想で、初句の「頼めずは」と呼応する。本歌の赤染衛門の歌の四句をそのまま用いている。
 結句「いさよひの月」は、十六夜の月よ、と呼びかける体言止めである。十六夜の月はためらうように遅れて出る月で、約束を頼みに寝られずに起きて待つ者が、ためらいながら出る月を眺めている。赤染衛門の歌が月の傾くまで待った女の歌であるのに対し、本歌は約束を頼みとする心に焦点を当てている。

まつち:人を待つ意と、待乳の山を掛ける
いさよひ:陰暦十六日の夜。また、その夜の月
作者
後鳥羽院
出典
新古今和歌集
前の歌
あぢきなくつらき嵐の声も憂し など夕暮れに待ちならひけん
次の歌
何ゆゑと思ひも入れぬ夕べだに 待ち出でしものを山の端の月