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頼めおく人もながらの山にだに
さ夜更けぬれば松風の声

歌の意味
来ると約束しておく人もいないという名の長等の山でさえ、夜が更けると、松風の音が聞こえることだ。
鑑賞
巻第十三 恋歌三 1202

詞書は前の歌に続き「題しらず」
 来ぬ人を待つ夜を詠む一連の六首目である。来ると約束しておく人もいないという名の長等の山でさえ、夜が更けると松風の音が聞こえると詠み、待つ身の寂しさを言外に示す。詞書は前の歌に続いて題しらずで、詠まれた事情は記されていない。
 作者の「鴨長明」は、下鴨神社の禰宜鴨長継の子で、後鳥羽院の和歌所の寄人を務めた。のちに出家し、『方丈記』を著した。
 長等の山は近江国の歌枕で、園城寺の背後にある。「無がら」を掛けて詠まれることがある。

 初句「頼めおく」は、約束しておく、の意である。前歌の「頼むる暮れ」を受け、約束の語を引き継ぐ。
 二句「人もながらの」の「ながら」は、人もいないという「無がら」の意と、長等の山を掛ける掛詞である。
 三句「山にだに」は、山でさえ、の意である。約束する人もいない山でさえ、という類推を示す。
 四句「さ夜更けぬれば」は、夜が更けてしまうと、の意である。本巻の第千二百首の「更けぬるに」と同じく、夜の更けゆくことを詠む。
 結句「松風の声」は、前歌と同じ結句である。前歌が約束の夕暮れに聞く松風を詠んだのに対し、本歌は約束する人もない山の松風を詠み、約束の有無が反転した対の構図となっている。約束のない山でさえ夜更けの松風は寂しいのだから、まして約束を頼みに待つ身はなおさらである、という心が余情として残る。

ながら:人もいないという無がらの意と、長等の山を掛ける
よりうど:和歌所などの職員
作者
鴨長明
出典
新古今和歌集
前の歌
いかが吹く身にしむ色の変はるかな 頼むる暮れのまつ風の声
次の歌
今来んと頼めしことを忘れずは この夕暮れの月や待つらん