君来んと言ひし夜ごとに過ぎぬれば
頼まぬものの恋ひつつぞ経る
- 歌の意味
-
あなたが来ようと言った夜ごとに、来ないまま過ぎてしまったので、もう頼みにはしないけれども、恋い慕い続けて日を送っている。
- 鑑賞
-
巻第十三 恋歌三 1207
詞書「題しらず」
来ぬ人を待つ夜を詠む一連の十一首目である。あなたが来ようと言った夜ごとに来ないまま過ぎたので、もう頼みにはしないが、恋い慕い続けて日を送っていると詠む。詞書は題しらずで、詠まれた事情は記されていない。
作者の「読人しらず」は、作者の名が伝わらないことを示す。
『伊勢物語』第二十三段に、男の訪れの絶えた高安の女の歌として見える。
初句「君来んと」は、あなたが来ようと、の意である。本巻の第千二百三首の「今来んと」と同じく、相手の約束の言葉を引いている。
二句「言ひし夜ごとに」は、言った夜ごとに、の意である。約束が一度ではなく幾度も重ねられたことを示す。
三句「過ぎぬれば」は、過ぎてしまったので、の意である。約束の夜が来ないまま空しく過ぎたことをいう。
四句「頼まぬものの」は、頼みにはしないけれども、の意である。「ものの」は逆接の接続助詞である。前の一連が約束を頼みにして待ったのに対し、本歌はもう約束を頼まないと言う。
結句「恋ひつつぞ経る」は、恋い慕い続けて日を送っている、の意で、係助詞「ぞ」が連体形「経る」と係り結びをなす。頼みにはしないのに恋しさは消えないという矛盾で結び、待つ恋が一夜のことから日々のことへと移っている。
ふ:時を過ごす。日を送る
- 作者
-
よみ人しらず
- 出典
-
新古今和歌集
- 前の歌
-
帰るさのものとや人の眺むらん 待つ夜ながらの有明の月
- 次の歌
-
衣手に山おろし吹きて寒き夜を 君来まさずはひとりかも寝ん