隈もなき折しも人を思ひ出でて
心と月をやつしつるかな
- 歌の意味
-
曇りひとつない月の明るい折も折、あの人を思い出して、自分の心から、涙で月をやつれた姿にしてしまったことだ。
- 鑑賞
-
巻第十四 恋歌四 1268
詞書は前の歌に続き「題しらず」
月に寄せる恋を詠む一連の十三首目である。曇りのない月の折にちょうど人を思い出し、自分の心から涙で月をやつれた姿にしてしまったと詠む。詞書は前歌に続いて題しらずで、詠まれた事情は記されていない。
原文には作者名がなく、前歌に続いて西行の歌である。西行は俗名を佐藤義清といい、鳥羽院の北面の武士であったが、二十三歳で出家し、諸国を旅して歌を詠んだ。
初句「隈もなき」は、曇りや陰がまったくない、の意で、澄みきった月を言う。
二句「折しも人を」の「折しも」は、ちょうどその折に、の意である。月の最も美しい折に限って人を思い出すという、皮肉な巡り合わせを示す。
三句「思ひ出でて」は、前歌の四句「思ひも出でば」を受ける。前歌では相手が思い出すことを願ったが、ここでは作者自身が思い出している。
四句「心と月を」の「心と」は、自分の心から、自分から進んで、の意である。月が曇ったのではなく、自分の心が月を曇らせたのだと言う。
結句「やつしつるかな」の「やつす」は、みすぼらしい姿に変える、の意である。涙でかすむ月を、自分がやつれさせたものと見なし、初句の「隈もなき」と対させて結ぶ。
くま:曇り、陰
やつす:みすぼらしい姿に変える
- 作者
-
西行
- 出典
-
新古今和歌集
- 前の歌
-
月のみやうわのそらなる形見にて 思ひも出でば心通はむ
- 次の歌
-
もの思ひてながむるころの月の色に いかばかりなるあはれ染むらむ