忘れじと言ひしばかりのなごりとて
その夜の月はめぐり来にけり
- 歌の意味
-
忘れまいと言った、ただその言葉だけのなごりとして、あの夜の月はめぐってきたことだ。
- 鑑賞
-
巻第十四 恋歌四 1277
詞書は前の歌に続き「千五百番歌合に」
月に寄せる恋を詠む一連の二十二首目である。忘れまいと言った言葉だけのなごりとして、あの夜の月がめぐってきたと詠む。詞書は前歌に続き、千五百番歌合に出詠した歌である。
作者の「有家朝臣」は藤原有家である。藤原重家の子で、新古今和歌集の撰者の一人である。朝臣は五位以上の者に付ける敬称である。
初句「忘れじと」は、忘れまいと、の意で、恋人の誓いの言葉である。
二句「言ひしばかりの」は、言っただけの、の意である。前歌が本歌とした素性の歌の「言ひしばかりに」と同じ語を用い、言葉だけで実のない約束であったことを示す。
三句「なごりとて」は、なごりとして、の意である。
四句「その夜の月は」は、誓いを交わしたあの夜の月は、の意である。
結句「めぐり来にけり」の「けり」は気づきの詠嘆で、月はめぐってきたことだ、の意である。人は来ないのに月だけが律儀にめぐってくるという対比を示し、前歌の「見し夜に似たる有明の月」と同じく、逢瀬の夜の月を詠んでいる。
なごり:物事が過ぎ去ったあとに残るもの
めぐりく:めぐってくる
- 作者
-
藤原有家
- 出典
-
新古今和歌集
- 前の歌
-
今来むと契りしことは夢ながら 見し夜に似たる有明の月
- 次の歌
-
思ひ出でて夜な夜な月に尋ねずは 待てと契りし中や絶えなむ