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尋ねても袖にかくべき方ぞなき
深き蓬の露のかことを

歌の意味
訪ねてみても、深い蓬に置く露にかこつけた恨み言を、袖に掛けて言い寄るべき相手はもういない。
鑑賞
巻第十四 恋歌四 1288

詞書「題しらず」
 荒れた宿に訪れのない恋を詠む一連の四首目である。訪ねてみても、深い蓬の露にかこつけた恨み言を袖に掛けて言うべき相手はいないと詠む。詞書は題しらずで、詠まれた事情は記されていない。
 作者の「左衛門督通光」は源通光である。内大臣源通親の子で、のちに太政大臣に至った。左衛門督は本集成立時の官職である。
 『源氏物語』蓬生の巻で、光源氏が荒れ果てた邸に末摘花を訪ねて詠んだ歌「尋ねても我こそ訪はめ道もなく深き蓬のもとの心を」を踏まえる。

 初句「尋ねても」は、訪ねてみても、の意である。本歌とする光源氏の歌の初句と同じである。
 二句「袖にかくべき」の「かく」は、露を袖に掛ける意と、恨み言を相手にかける、言いかける意とを掛ける。
 三句「方ぞなき」は、相手がいない、の意の三句切れである。「ぞ」の結びで「なき」は連体形となる。光源氏の歌では、訪ねた先に変わらぬ心で待つ人がいたが、ここでは訪ねても誰もいないと反転させている。
 四句「深き蓬の」は、本歌の「深き蓬の」と同じ句である。前歌の蓬を受け、さらに深く茂った荒れ宿を示す。
 結句「露のかことを」の「かこと」は、かこつけての恨み言、の意である。蓬の露を涙になぞらえて恨みを言いかけようにも、その相手がいないという嘆きを、倒置で添えて結ぶ。

かく:露を袖に掛ける意と、言葉を相手にかける意を掛ける
かごと:かこつけての恨み言、言いがかり
作者
源通光
出典
新古今和歌集
前の歌
来ぬ人を思ひ絶えたる庭の面の 蓬が末ぞまつにまされる
次の歌
形見とてほの踏み分けし跡もなし 来しは昔の庭の荻原