名残をば庭の浅茅にとどめ置きて
誰ゆゑ君が住みうかれけむ
- 歌の意味
-
名残を庭の浅茅にとどめ置いたまま、いったい誰のために、あなたはこの住まいを離れてさまよい出てしまったのだろう。
- 鑑賞
-
巻第十四 恋歌四 1290
詞書は前の歌に続き「題しらず」
荒れた宿に訪れのない恋を詠む一連の六首目で、一連の最後の歌である。名残を庭の浅茅にとどめ置いたまま、誰のためにあなたはこの住まいを離れてしまったのかと詠む。詞書は前歌に続いて題しらずで、詠まれた事情は記されていない。
作者の「法橋行遍」は、法橋の僧位にあった僧である。法橋は、法眼に次ぐ僧位である。
初句「名残をば」は、名残を、の意で、「をば」は強めて示す言い方である。
二句「庭の浅茅に」は、本巻の第千二百八十六首の「浅茅が末」と同じく、荒れた庭の草を挙げる。一連の歌が繰り返してきた「庭の」をここでも用いている。
三句「とどめ置きて」は六音の字余りで、とどめ置いたまま、の意である。
四句「誰ゆゑ君が」は、誰のためにあなたが、の意である。自分ではない誰かのもとへ去ったことを問う。
結句「住みうかれけむ」の「住みうかる」は、住まいを離れてさまよい出る、の意で、「けむ」は過去の原因推量である。これまでの歌が訪れを待つ側から詠まれたのに対し、ここでは住まいそのものを去った相手を問い、荒れた宿の一連を結んでいる。
なごり:物事が過ぎ去ったあとに残るもの
あさぢ:丈の低い茅
すみうかる:住まいを離れてさまよい出る
- 作者
-
行遍
- 出典
-
新古今和歌集
- 前の歌
-
形見とてほの踏み分けし跡もなし 来しは昔の庭の荻原
- 次の歌
-
忘れずは慣れし袖もや凍るらむ 寝ぬ夜の床の霜のさむしろ