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忘れずは慣れし袖もや凍るらむ
寝ぬ夜の床の霜のさむしろ

歌の意味
あの人も私を忘れていないのなら、慣れ親しんだその袖も、今ごろ涙で凍っているだろうか。私は眠れぬ夜の床に、霜の置いた寒いむしろを敷いている。
鑑賞
巻第十四 恋歌四 1291

詞書「摂政太政大臣家百首歌合に」
 忘れられてゆく恋を詠む一連の一首目である。あの人も私を忘れていないなら、慣れ親しんだ袖も涙で凍っているだろうか、私は眠れぬ夜の床に霜のむしろを敷いていると詠む。詞書によれば、藤原良経の家で催された百首歌の歌合に出詠した歌である。
 作者の「定家朝臣」は藤原定家である。藤原俊成の子で、新古今和歌集の撰者の一人である。のちに新勅撰和歌集を単独で撰進した。

 初句「忘れずは」は、もし忘れていないのなら、の意の仮定である。前歌までの荒れた宿の一連から、忘れる忘れないを主題とする歌へと移る。
 二句「慣れし袖もや」は、共に過ごして慣れ親しんだあの人の袖も、の意である。「や」は三句の「らむ」と呼応する疑問である。
 三句「凍るらむ」の「らむ」は現在推量で、今ごろ凍っているだろうか、の意の三句切れである。相手も自分と同じく涙に濡れた袖を凍らせているかと、遠く思いやる。
 四句「寝ぬ夜の床の」は、眠れない夜の寝床の、の意である。
 結句「霜のさむしろ」の「さむしろ」は、幅の狭いむしろの意の「狭筵」に、「寒し」を掛けている。体言止めで、自分の側の冷えきった独り寝の床を示し、上の句の相手の袖と対させている。

なる:慣れ親しむ
さむしろ:幅の狭いむしろの意に、寒しを掛ける
作者
藤原定家
出典
新古今和歌集
前の歌
名残をば庭の浅茅にとどめ置きて 誰ゆゑ君が住みうかれけむ
次の歌
風吹かば峰に別れむ雲をだに ありしなごりの形見とも見よ