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つゆばかり置くらん袖は頼まれず
涙の河の滝つ瀬なれば

歌の意味
露がほんの少し置くというあなたの袖は、頼みにできない。私の袖は、涙の川の激しい早瀬なのだから。
鑑賞
巻第十五 恋歌五 1350

詞書「御返し」
 露を詠む一連の十五首目で、一連を締めくくる歌である。前歌への返歌で、露ほどの涙が置くという天皇の袖は頼みにならない、自分の袖は涙の川の早瀬なのだからと、涙の多さで思いの深さを競い返す。
 作者の「読人しらず」は、名の伝わらない作者であることを示す。詞書から、光孝天皇の歌を受けた人物であることが分かる。

 初句「つゆばかり」の「つゆ」は、前歌の「涙の露」を受けて露の意を表しつつ、ほんの少し、の意を掛ける掛詞である。
 二句「置くらん袖は」の「らん」は伝聞に近い推量で、置いているとおっしゃる袖は、の意である。前歌の結句「夜な夜なぞ置く」を受けている。
 三句「頼まれず」は、頼みにできない、の意である。三句で切れる。
 四句「涙の河の」で、前歌の「露」が「河」へと大きくされる。露と河という尺度の違いで、思いの深さの差を示している。
 結句「滝つ瀬なれば」は、激しく流れる早瀬であるから、の意である。前歌の露の一連がここで涙の河へと転じ、次からの歌群へと移っていく。

つゆ:草葉に置く露の意と、ほんの少しの意を掛ける
たきつせ:水の激しく流れる早瀬
作者
よみ人しらず
出典
新古今和歌集
前の歌
君がせぬわが手枕は草なれや 涙の露の夜な夜なぞ置く
次の歌
思ひやるよその村雲しぐれつつ 安達の原に紅葉しぬらん