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かきやりしその黒髪の筋ごとに
うち臥すほどは面影ぞ立つ

歌の意味
かつて私が手でかき払ってやった、あの人の黒髪の一筋一筋までが、独り横になるときには面影となって浮かんでくる。
鑑賞
巻第十五 恋歌五 1390

詞書「題しらず」
 過ぎた恋を思い返す一連の一首目である。かつて手でかき払ってやった女の黒髪の一筋一筋までが、独り横になると面影として浮かぶと詠む。詞書は題しらずで、詠まれた事情は記されていない。
 作者の「定家朝臣」は藤原定家である。藤原俊成の子で、『新古今和歌集』の撰者の一人である。
 本歌は、和泉式部の「黒髪の乱れも知らずうち臥せばまづかきやりし人ぞ恋しき」(『後拾遺和歌集』)である。本歌は女の立場から、自分の黒髪をかき払ってくれた男を恋うが、この歌はそれを男の立場から詠み返している。

 初句「かきやりし」は、手でかき払ってやった、の意である。本歌の四句「まづかきやりし」を取る。
 二句「その黒髪の」は、かつて共寝した女の黒髪をいう。本歌の初句「黒髪の」を取る。
 三句「筋ごとに」は、一筋一筋ごとに、の意である。面影が髪の筋の細部に至るまで鮮やかによみがえることをいう。
 四句「うち臥すほどは」は、横になるときには、の意である。本歌の三句「うち臥せば」を取る。
 結句「面影ぞ立つ」は、係助詞「ぞ」を受けて連体形「立つ」で結ぶ係り結びである。前歌までの夢の一連から、ここで目覚めたまま浮かぶ面影へと移り、過ぎた恋を思い返す歌群が始まる。

かきやる:手で払いのける
おもかげ:心に浮かぶ姿
作者
藤原定家
出典
新古今和歌集
前の歌
あはれなりうたた寝にのみ見し夢の 長き思ひにむすぼほれなん
次の歌
夢かとよ見し面影も契りしも 忘れずながらうつつならねば