流れ出でんうき名にしばし淀むかな
求めぬ袖の淵はあれども
- 歌の意味
-
世間に流れ出るであろうつらい浮き名を思って、しばらくためらっている。求めもしないのに、袖には涙の淵ができているけれど。
- 鑑賞
-
巻第十五 恋歌五 1395
詞書「題しらず」
途絶えた仲を詠む一連の一首目である。袖には求めもしない涙の淵ができているが、流れ出る浮き名を思ってしばらくためらうと詠む。詞書は題しらずで、詠まれた事情は記されていない。
作者の「相模」は、相模守大江公資の妻となったことからこの名で呼ばれた女房歌人である。のちに一条天皇の皇女脩子内親王に仕えた。
初句「流れ出でん」は、流れ出るであろう、の意である。浮き名が世間に広まることを、水が流れ出ることにたとえる。
二句「うき名にしばし」の「うき」は、水に「浮き」の意と、「憂き」つらい意を掛ける掛詞である。「浮き名」は恋の噂をいう。
三句「淀むかな」は、ためらう、の意で、水が淀む意と重なる。詠嘆の「かな」で切れる三句切れである。
四句「求めぬ袖の」は、求めもしないのに、の意で、涙が自然と袖にたまることをいう。
結句「淵はあれども」は、袖に涙の淵ができているけれども、の意である。「流れ」「淀む」「淵」は水の縁語で、一首が水の言葉で貫かれている。前の歌群の面影や夢から、ここで人目や噂をはばかる恋へと移る。
うきな:恋の噂。「浮き名」と「憂き名」を掛ける
ふち:水が深くよどんでいる所
- 作者
-
相模
- 出典
-
新古今和歌集
- 前の歌
-
思ひわび見し面影はさておきて 恋せざりけん折ぞ恋しき
- 次の歌
-
つらからば恋しきことは忘れなで 添へてはなどか静心なき