古典和歌stream

春来れば袖の氷もとけにけり
漏りくる月の宿るばかりに

歌の意味
春が来たので、涙で凍っていた袖の氷もとけてしまった。すき間から漏れてくる月の光が、袖に宿るほどに。
鑑賞
巻第十六 雑歌上 1440

詞書「月の明く侍りける夜、袖の濡れたりけるを」
 春の訪れを詠む一連の五首目である。春が来て、涙で凍っていた袖の氷がとけ、漏れてくる月の光が映るほどになったと詠む。詞書によれば、月の明るい夜に、涙で袖が濡れていたことを詠んだ歌である。
 作者の「大僧正行尊」は、参議源基平の子である。園城寺の僧で、大峰や葛城で修行を重ねた修験の行者として知られ、天台座主、大僧正となった。

 初句「春来れば」は、已然形に「ば」を添えた確定条件で、春が来たので、の意である。
 二句「袖の氷も」は、涙に濡れた袖が冬の寒さで凍ったものをいう。本巻巻頭の第千四百三十六首の「涙のつらら」と同じく、涙の凍ったものが春にとけるという趣向である。
 三句「とけにけり」は、第千四百三十六首の三句「とけにけり」と同じ句である。一連の初めの歌の句を繰り返し、涙の氷のとける春で一連を結び合わせている。ここで三句切れとなる。
 四句「漏りくる月の」は、すき間から漏れさしてくる月の光をいう。詞書の月の明るい夜を受けている。
 結句「宿るばかりに」の「宿る」は、光が映ることをいう。氷がとけて涙が水に戻ったので、月の光がそこに映るほどになったとし、袖を濡らす涙の多さを示す。

もりく:すき間から漏れてくる
やどる:水面などに光や影が映る
作者
行尊
出典
新古今和歌集
前の歌
ひきかへて野辺のけしきは見えしかど 昔を恋ふる松はなかりき
次の歌
谷深み春の光の遅ければ 雪につつめる鶯の声