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春を経てみゆきに馴るる花の陰
ふりゆく身をもあはれとや思ふ

歌の意味
幾春を経て、御幸に馴れ親しんできた花の陰よ。深雪のように花の降りかかる下で、年老いてゆく我が身をも、あわれと思ってくれるだろうか。
鑑賞
巻第十六 雑歌上 1455

詞書「近衛司にて年久しくなりてのち、上のをのこども大内の花見にまかれりけるによめる」
 桜を詠む一連の五首目である。幾春も御幸に馴れてきた内裏の花に、年老いてゆく我が身をもあわれと思うかと問いかける。詞書によれば、近衛府の官として長い年月を過ごしたのち、殿上人たちが内裏の花見に出かけた折に詠んだ歌である。
 作者の「藤原定家朝臣」は、藤原俊成の子である。『新古今和歌集』の撰者の一人で、のちに『新勅撰和歌集』を単独で撰んだ。近衛少将、中将として長く同じ官にとどまった。
 詞書の「上のをのこども」は殿上に仕える男官たち、「大内」は内裏をいう。

 初句「春を経て」は、幾度もの春を過ごして、の意である。花の過ごしてきた年月と、作者が近衛府で過ごした年月が重なる。
 二句「みゆきに馴るる」の「みゆき」は、上皇や天皇の外出を指す「御幸」と、深く積もった雪を指す「深雪」を掛ける。前の二首の「みゆき」と同じ掛詞を受け継いでいる。
 三句「花の陰」は、花の木の下陰をいう。ここで三句切れとなり、花に呼びかける形をとる。
 四句「ふりゆく身をも」の「ふりゆく」は、年老いてゆく意の「古りゆく」に、雪が降る意の「降りゆく」を掛け、「みゆき」の縁語となる。
 結句「あはれとや思ふ」は、係助詞「や」を受けて連体形「思ふ」で結ぶ係り結びである。長く御幸を見てきた花に、同じく年を重ねた我が身への共感を問いかけている。

みゆき:上皇や天皇の外出を指す「御幸」と、深く積もった雪を指す「深雪」を掛ける
ふりゆく:年老いてゆく意の「古りゆく」と、雪が降る意の「降りゆく」を掛ける
このゑづかさ:宮中の警護にあたった近衛府の官
作者
藤原定家
出典
新古今和歌集
前の歌
枝ごとのすゑまで匂ふ花なれば 散るもみゆきと見ゆるなるらん
次の歌
馴れ馴れて見しは名残の春ぞとも などしらかはの花の下陰