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唐衣花の袂に脱ぎかへよ
我こそ春の色はたちつれ

歌の意味
その衣を、花やかな色の袂に脱ぎ替えなさい。私こそ、春の華やかな色を断ってしまったのだが。
鑑賞
巻第十六 雑歌上 1483

詞書「世をのがれてのち、四月一日、上東門院太皇太后宮と申しける時、衣更への御装束奉るとて」
 夏を詠む一連の一首目である。衣を花やかな色の袂に脱ぎ替えなさい、私こそ春の色を断ったのだが、と娘の彰子に詠み贈る。詞書によれば、作者が出家したのちの四月一日、上東門院がまだ太皇太后宮と呼ばれていた頃、衣更えの装束を奉るときに添えた歌である。
 作者の「法成寺入道前摂政太政大臣」は藤原道長である。藤原兼家の子で、摂政、太政大臣となり、出家して法成寺を建立した。
 詞書の「上東門院」は道長の娘の彰子で、一条天皇の中宮となり、のちに太皇太后となった。衣更えは、四月一日と十月一日に、衣服や調度を季節に合ったものに改める宮中の行事である。
 この歌には上東門院の返しがあり、次歌に置かれている。

 初句「唐衣」は、美しい衣装をいい、ここでは奉る衣更えの装束を指す。
 二句「花の袂に」は、花やかな色の袂をいう。夏の衣更えにあたり、なお華やかな装いをすすめている。
 三句「脱ぎかへよ」は命令形で、脱ぎ替えなさい、の意である。ここで三句切れとなる。
 四句「我こそ春の」の「こそ」は係助詞で、結句の「つれ」で結ぶ。「春の色」は、華やかな色、また俗世の華やぎをいう。
 結句「色はたちつれ」は、係助詞「こそ」を受けて已然形「つれ」で結ぶ係り結びである。「たち」は「断ち」と、衣の縁語の「裁ち」を掛ける。出家して華やかな色を断った自分に対し、娘にはなお花やかな装いをすすめる親心を示している。

たつ:物事を断ち切る意の「断つ」と、布を裁つ意の「裁つ」を掛ける
からころも:美しい衣装。中国風の衣服
ころもがへ:季節に合わせて衣服や調度を改めること
作者
藤原道長
出典
新古今和歌集
前の歌
おのが波に同じ末葉ぞしをれぬる 藤咲く多祜のうらめしの身や
次の歌
唐衣たちかはりぬる春の世に いかでか花の色を見るべき