山の端に思ひも入らじ世の中は
とてもかくてもありあけの月
- 歌の意味
-
月が山の端に入るように、山に入って世を捨てようなどと深く思うまい。世の中は、ああであろうとこうであろうと、生きていけるものだ、有明の月のように。
- 鑑賞
-
巻第十六 雑歌上 1508
詞書「題しらず」
月を詠む一連の十首目で、この一連の終わりの歌である。月が山の端に入るように世を捨てて山に入ろうとは思うまい、世の中はどうあっても生きていけるものだと、有明の月に託して詠む。詞書は題しらずで、詠まれた事情は記されていない。
作者の「藤原盛方朝臣」は、平安時代末期の歌人である。
初句「山の端に」は、月の入る山の稜線を示す。本巻の第千五百五首で「山の端にひとりぞ入りし」と詠まれたのと同じ山の端である。
二句「思ひも入らじ」は、打消意志の「じ」で、深く思い込むまい、の意である。「入る」は、月が山の端に入る意と、思い入る意とを重ねる。
三句「世の中は」は、生きてゆくこの世を主題として示す。
四句「とてもかくても」は、ああであろうとこうであろうと、の意である。どのような境遇であっても、という達観を表す。
結句「ありあけの月」の「ありあけ」は、「あり」、すなわち生きていられるの意と、「有明」を掛ける。前歌で志賀の唐崎に残った月に続き、夜明けに残る月にわが身を重ね、世を捨てずに生きる心を示して一連を結ぶ。
ありあけ:生きていられるの意の「あり」と、夜明けに残る月の「有明」を掛ける
やまのは:山の稜線。空と接する山の輪郭
- 作者
-
藤原盛方
- 出典
-
新古今和歌集
- 前の歌
-
夜もすがら浦漕ぐ舟は跡もなし 月ぞ残れる志賀の唐崎
- 次の歌
-
忘れじよ忘るなとだに言ひてまし 雲居の月の心ありせば