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有明の月ばかりこそ通ひけれ
来る人なしの宿の庭にも

歌の意味
有明の月だけが通って来ることだ。訪ねて来る人もいない、この宿の庭にも。
鑑賞
巻第十六 雑歌上 1528

詞書は前の歌に続き「題しらず」
 有明の月を詠む一連の八首目である。訪ねて来る人もいない宿の庭にも、有明の月だけは通って来ると詠む。詞書は前の歌に続き題しらずで、詠まれた事情は記されていない。
 作者の「伊勢大輔」は、大中臣輔親の娘である。上東門院に仕えた女房歌人で、「いにしへの奈良の都の八重桜」の歌で知られる。

 初句「有明の」は、夜明けに残る月を示す。
 二句「月ばかりこそ」の「こそ」は係助詞で、三句の「けれ」で結ぶ。月だけを取り立てて示す。
 三句「通ひけれ」は、係助詞「こそ」を受けて已然形「けれ」で結ぶ係り結びである。人の通いはないが月だけは通うとし、ここで三句切れとなる。
 四句「来る人なしの」は、訪ねて来る人のない、の意である。前歌の「見し人」が、ここでは訪れない人となっている。
 結句「宿の庭にも」は倒置で、月の通う場所を最後に置く。人の来ない寂しい宿を、有明の月だけが訪れるとし、次歌の人影のない宿の月へとつないでいる。

かよふ:行き来する。通う
作者
伊勢大輔
出典
新古今和歌集
前の歌
暁の月見んとしも思はねど 見し人ゆゑにながめられつつ
次の歌
住み慣れし人影もせぬ我が宿に 有明の月の幾夜ともなく