天の戸をおしあけがたの雲間より
神代の月の影ぞ残れる
- 歌の意味
-
天の岩戸を押し開けるように明けてゆく明け方の雲の間から、神代そのままの月の光が残っている。
- 鑑賞
-
巻第十六 雑歌上 1547
詞書「春日社歌合に、暁月の心を」
暁の月を詠む一連の一首目である。天の岩戸を押し開けるように明けてゆく明け方の雲間から、神代そのままの月の光が残っていると詠む。詞書によれば、春日社歌合で、暁月の題で詠まれた歌である。
作者の「摂政太政大臣」は藤原良経である。九条兼実の子で、摂政、太政大臣となった。『新古今和歌集』の仮名序を書いた。
春日社歌合は、元久元年(1204)に後鳥羽院が春日社に奉納した歌合である。天の戸は天の岩戸をいい、天照大神が隠れた岩戸を開けて世に光が戻ったという神話で知られる。
初句「天の戸を」は、天の岩戸を示す。神の社に奉納する歌合にふさわしく、神話の語から言い起こしている。
二句「おしあけがたの」の「おしあけがた」は、戸を「押し開け」る意と、「明け方」を掛ける。天の岩戸を押し開ける神話と、夜明けの時とを重ねる。
三句「雲間より」は、雲の切れ間から、の意である。
四句「神代の月の」は、神代の昔と変わらない月をいう。前の歌々の有明の月を、神話の時代の月にまで広げている。
結句「影ぞ残れる」は、係助詞「ぞ」を受けて連体形「残れる」で結ぶ係り結びである。明け方の空に残る月の光に、神代から続く神威を感じ取り、春日社をことほいでいる。
おしあけがた:戸を「押し開け」る意と、「明け方」を掛ける
あまのと:天の岩戸
- 作者
-
藤原良経
- 出典
-
新古今和歌集
- 前の歌
-
有明の同じながめは君も問へ 都のほかも秋の山里
- 次の歌
-
雲をのみつらきものとて明かす夜の 月よ梢にをちかたの山