しめおきて今やと思ふ秋山の
蓬がもとにまつむしの鳴く
- 歌の意味
-
墓所と定めておいて、今こそその時かと思う秋の山の、蓬の茂る根もとで、私を待つかのように松虫が鳴いている。
- 鑑賞
-
巻第十六 雑歌上 1560
詞書「八十に多く余りてのち、百首歌召ししに、よみて奉りし」
秋の景物に寄せて述懐する一連の一首目である。墓所と定めておき、今こそその時かと思う秋の山の蓬の根もとで、私を待つように松虫が鳴いていると詠む。詞書によれば、八十歳を大きく過ぎてのち、後鳥羽院が百首歌を召した折に詠んで奉った歌である。
作者の「皇太后宮大夫俊成」は藤原俊成である。藤原俊忠の子で、定家の父にあたる。皇太后宮大夫を務め、安元二年(1176)に出家した。『千載和歌集』の撰者である。
初句「しめおきて」は、標を立てて自分の場所と定めておいて、の意で、ここでは墓所と定めておくことをいう。
二句「今やと思ふ」は、今こそその時かと思う、の意である。老いて死を身近に感じる心を示す。
三句「秋山の」は、墓所と定めた秋の山をいう。前の一連の海辺の月から、秋の山の景へと移る。
四句「蓬がもとに」は、蓬の茂る根もとをいう。蓬は荒れ地や墓所に茂る草として詠まれる。
結句「まつむしの鳴く」の「まつむし」は、虫の「松虫」と、「待つ」を掛ける。墓所の蓬のもとで虫が自分を待っているかのように鳴くとし、死を静かに見つめる老境を示している。ここから秋の景物に述懐を寄せる歌が続く。
しめおく:標を立てて自分の場所と定めておく
まつむし:虫の「松虫」と、「待つ」を掛ける
よもぎ:荒れ地に茂る草
- 作者
-
藤原俊成
- 出典
-
新古今和歌集
- 前の歌
-
ながめよと思はでしもや帰るらん 月待つ波の海人の釣舟
- 次の歌
-
荒れわたる秋の庭こそあはれなれ まして消えなん露の夕暮