風になびく富士の煙の空に消えて
ゆくへも知らぬわがおもひかな
- 歌の意味
-
風になびく富士の煙が空に消えて行方も知れないように、行方の定まらない私の思いであることよ。
- 鑑賞
-
巻第十七 雑歌中 1615
詞書「東の方へ修行し侍りけるに富士の山を詠める」
富士の山を詠む一連の二首目である。風になびく富士の煙が空に消えて行方も知れないように、わが思いも行方の知れないものであると詠む。詞書によれば、東国へ修行の旅に出た折に富士の山を詠んだ歌である。
作者の「西行法師」は、俗名を佐藤義清といい、鳥羽院の北面の武士であったが、二十三歳で出家した。
西行みずから、この歌を自讃歌の第一としたと伝えられる。
初句「風になびく」は、六音の字余りである。風に吹かれてなびく煙の動きをまず示す。
二句「富士の煙の」は、前歌の「富士の煙を」と同じ語を受け、富士の一連を続ける。
三句「空に消えて」は、空に消えていって、の意で、これも六音の字余りである。煙が空へ消えてゆくことで、四句の「ゆくへも知らぬ」を導く。
四句「ゆくへも知らぬ」は、行方もわからない、の意である。煙の行方と、わが思いの行方を重ねている。
結句「わがおもひかな」の「おもひ」には、思い、の意と、煙を生む火、の意が掛けられている。「かな」は詠嘆の終助詞である。前歌の「身のおもひにて」と同じ掛詞を用い、世を厭う高い志に対して、定めなく漂う心を詠む。
おもひ:思いの意と、火の意を掛ける
しゆぎやう:仏道を修めるために諸国をめぐること
- 作者
-
西行
- 出典
-
新古今和歌集
- 前の歌
-
世の中を心高くも厭ふかな 富士の煙を身のおもひにて
- 次の歌
-
時知らぬ山は富士の嶺いつとてか 鹿の子まだらに雪の降るらん