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時知らぬ山は富士の嶺いつとてか
鹿の子まだらに雪の降るらん

歌の意味
季節をわきまえない山は富士の嶺である。今をいつだと思って、鹿の子まだらに雪が降り積もっているのだろうか。
鑑賞
巻第十七 雑歌中 1616

詞書「五月の晦日に富士の山の雪白く降れるを見て詠み侍りける」
 富士の山を詠む一連の三首目である。季節を知らない山は富士の嶺で、今をいつと思って鹿の子まだらに雪が降っているのかと詠む。詞書によれば、五月の末に富士の山に雪が白く降っているのを見て詠んだ歌である。
 作者の「業平朝臣」は、平城天皇の皇子阿保親王の子である。六歌仙の一人で、『伊勢物語』の主人公に擬せられる。
 『伊勢物語』第九段の東下りに、男が五月の末に富士の山を見て詠んだ歌として載る。
 五月の晦日は陰暦五月の末日で、季節は夏の盛りにあたる。

 初句「時知らぬ」は、季節をわきまえない、の意である。夏に雪をいただく富士の山をまず言い表す。
 二句「山は富士の嶺」は、その山こそ富士の嶺である、と言い切る。体言で句が切れる二句切れである。前の二首が富士の煙を詠んだのに対し、ここでは富士の雪が詠まれる。
 三句「いつとてか」は、今をいつだと思って、の意である。「か」は疑問の係助詞である。
 四句「鹿の子まだらに」は、子鹿の背の白い斑点のように、の意である。山肌に雪がまだらに残るさまを、身近な動物の模様にたとえている。
 結句「雪の降るらん」は、係助詞「か」を受けて「らん」の連体形で結ぶ係り結びである。夏に雪の降る不思議を、現在の推量で問いかけて結ぶ。

つごもり:月の末日
かのこまだら:子鹿の毛のように白い斑点が散ったさま
ね:山の頂
作者
在原業平
出典
新古今和歌集
前の歌
風になびく富士の煙の空に消えて ゆくへも知らぬわがおもひかな
次の歌
春秋も知らぬ常磐の山里は 住む人さへや面変はりせぬ