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事しげき世を逃れにし深山辺に
嵐の風も心して吹け

歌の意味
煩わしいことの多い世を逃れて来た奥山のほとりに、嵐の風も気をつけて静かに吹いてくれ。
鑑賞
巻第十七 雑歌中 1625

詞書「題しらず」
 山の住まいに吹く風を詠む一連の五首目である。煩わしい世を逃れて来た深山のほとりには、嵐の風も心して吹いてほしいと詠む。詞書は題しらずで、詠まれた事情は記されていない。
 作者の「寂然法師」は、俗名を藤原頼業という。兄の寂超、寂念とともに大原に住み、大原三寂と呼ばれた。西行と親しく交わった。

 初句「事しげき」は、煩わしいことの多い、の意である。
 二句「世を逃れにし」は、世を逃れてきた、の意である。完了の「に」と過去の「し」によって、すでに世を捨てた身であることを示す。
 三句「深山辺に」は、奥深い山のほとりに、の意である。
 四句「嵐の風も」は、嵐の風までも、の意である。「も」によって、世の煩わしさを逃れた身には、風の騒がしさも無用であることを示す。
 結句「心して吹け」は、気をつけて吹け、の意の命令形である。嵐に呼びかけて一連を結ぶ。前歌で嵐に慣れて夢を得たのに対し、ここでは嵐そのものに静まるよう求めている。

こころす:気をつける。心づかいをする
みやまべ:奥深い山のほとり
作者
寂然
出典
新古今和歌集
前の歌
滝の音松の嵐も慣れぬれば うち寝るほどの夢は見せけり
次の歌
奥山の苔の衣にくらべ見よ いづれか露の置きまさるとも