苔の庵さして来つれど君まさで
帰る深山の道の露けさ
- 歌の意味
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苔むした庵を目指してやって来たけれども、戸は閉ざされてあなたはおられず、むなしく帰る深い山の道の露っぽさよ。
- 鑑賞
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巻第十七 雑歌中 1630
詞書「深き山に住み侍りける聖のもとに尋ねまかりたりけるに、庵の戸を閉ぢて人も侍らざりければ、帰るとて書きつけける」
苔の庵を詠む贈答の一首目である。苔の庵を目指して来たが、主の聖はおらず、帰る深山の道は露に濡れていると詠む。詞書によれば、深い山に住む聖を訪ねたところ、庵の戸が閉ざされて誰もいなかったので、帰り際に書きつけた歌である。
作者の「恵慶法師」は、平安時代中期の歌僧で、中古三十六歌仙の一人である。
次歌の第千六百三十一首は、庵の主である聖の返歌である。
初句「苔の庵」は、苔の生えた粗末な庵で、山に籠る聖の住まいをいう。六音の字余りである。
二句「さして来つれど」の「さし」には、庵を目指す、の意と、戸が鎖される、の意が掛けられている。「つれど」は完了の「つ」に逆接の「ど」が付いた形である。
三句「君まさで」は、あなたがおいでにならないで、の意である。「ます」は「あり」の尊敬語である。
四句「帰る深山の」は、むなしく引き返す深い山の、の意である。
結句「道の露けさ」は、道が露に濡れていることよ、の意である。名詞で結び、会えずに帰る涙の思いを山道の露に託している。
いほり:草木で作った粗末な住まい
ひじり:山に籠って修行する僧
さす:目指す意と、戸を鎖す意を掛ける
ます:いらっしゃる
- 作者
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恵慶
- 出典
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新古今和歌集
- 前の歌
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身をばかつをしほの山と思ひつつ いかに定めて人の入りけん
- 次の歌
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荒れ果てて風もさはらぬ苔の庵に 我はなくとも露は漏りけん